教育×読書 自分をコントロールする力 非認知スキルの心理学(1) 非認知スキルとは?
「最近、非認知スキルって言葉をよく聞くようになったけど何のことだろう?」「実行機能も大事って聞くけど…」
このように思われている方も少なくないのではないでしょうか。
今回はそんな疑問を解決するために、非認知スキル、実行機能についてまとめていきます。
要約
子供の将来を占う実行機能
現在、世界の教育機関や研究機関、国際的な組織において、子どもの実行機能が非常に注目されている。20世紀末から学術的研究が爆発的に増え、基礎研究の段階を経て、現在は家庭や保育、教育現場において支援、応用する段階に入っている。子供の実行機能が重要である事はもはや世界の常識になりつつある。
子供の時に実行機能の能力が高いと、学力や社会性が高くなり、さらに、大人になったときに経済的に成功し、健康状態も良い可能性が高いことが示されている。逆に言えば、幼い頃に実行機能に問題を抱えると、子供期だけではなく、将来にも様々な問題を抱える可能性がある。
つまり、実行機能は、子供の将来を占う上で、極めて重要な能力だ。
ところが、日本では、実行機能と言う言葉自体ほとんど知られていない。実際、実行機能が子供の将来に重要だと言われても、「実行機能なんて聞いたことがない」とか、「いやいや、IQの方が大事でしょ」などと思われることだろう。
IQが重要であることは確かだが、最近のいくつかの研究から、実行機能は、IQよりも子供の将来に影響与える可能性があることがあることが示されている。さらに、より重要なこととして、実行機能は、IQよりも、よくも悪くも家庭環境や教育の影響を受けやすい。支援や訓練が可能な一方で、劣悪な環境にいると実行機能は育たない。
もちろん、1つの能力だけで子供の将来が決まるわけではない。この点は留意が必要だが、様々な研究において、一貫して実行機能や自制心が子供の将来に影響与えることが示されており、その重要性は明らかだ。子供の持つ多様な能力全てに目を配る事は不可能なので、有望な能力に注目が集まるのは当然と言える。
IQよりも…
子供の将来にとって大事な能力は何かと考えたときに、まず思い浮かぶのがIQなどに代表される「頭の良さ」ではないだろうか。実際のところ、子供のときのIQは、学力や将来の年収などにも影響することが知られている。
ところが、最近の研究の進展により、IQが重要であることは間違いないものの、IQだけでは不十分であることが明らかになっている。
なぜなら、IQだけでその人の能力を測ることはできないからだ。
「東大生だから仕事ができるはずだ」というイメージを持っている人は多いだろう。しかし東大生の中にも仕事ができない人はいる。同じ東大を卒業しているのに何が違うのだろうか。
このような差を生むのが、「非認知スキル」だ。OECDと言う国際機関は、2015年の報告書の中で、今後教育で育むべき能力は、非認知スキルだと述べている。
このスキルは、言うなれば、自分や他人とうまく付き合っていく能力のことだ。私たちは、会社や学校などの社会の中で、自分を大事にしつつ、他者ともうまくやっていかなければならない。
仮にIQが高く、知識もあったとしても、非認知スキルが低い場合は、粘り強く仕事をやり遂げられず、すぐに放り出してしまうかもしれないし、顧客とトラブルを起こしてしまうかもしれない。
実際の社会生活においては、IQのみならず、非認知スキルが要求される場面が多い。
OECDが非認知スキルの重要性を強調するのは、このスキルが変化しやすいためである。IQは基本的に安定したものであり、生涯を通じてあまり変化しない。子供の頃にIQが高い場合は、大人になってもIQはやはり高いことが多い。
一方、日認知スキルは教育や子育てによって変化する可能性がある。
非認知スキルとは?
非認知スキルとは具体的にどのようなもののことを指すのだろうか。OECDの報告書では、他者とうまく付き合う能力、自分の感情を管理する能力、目標を達成する能力の3つが挙げられている。
他者とうまく付き合う能力とは、他者に対する思いやりや、社交的なスキルのことだ。これらのスキルが学校や職場で重要な事は言うまでもない。思いやりのない人は、周りからも助けてもらえず、学校や職場で孤立しまうだろう。
自分の感情を管理する能力とは、自尊心を持つことだ。自尊心が高すぎるのも問題だが、自分に自信を持つ事は、他者と関わる上での基盤となる。
これらのスキルも重要だが、小学校入学前の子供を対象にした研究の多くが、目標を達成する能力、特に、実行機能が子供の将来に与える影響が強いことを示している。非認知スキルの中でも特に重要なスキルと言っても良いだろう。
最近では、実行機能は、認知的スキルからも他の非認知スキルからも独立した、特別なスキルだと考えられる子ある。そういう意味でも、実行機能が特別な存在であることがわかる。
子供の将来予想する実行機能
デューク大学カスピ博士らのグループによる2011年の報告では、子供のときの実行機能から、32歳になったときの健康状態や、年収や職業、さらには犯罪の程度までを予測できることが明らかになった。
この研究では、5歳から10歳ごろまでの子供期における自己機能を、親や保育士などに評定してもらった。
それらの子供が大人になるまで追跡し、大人になったときにどのような影響が見られるかを検討した。その結果、子供期において実行機能が低い子供は、家庭の経済状態やIQなどの影響を統計的に除外しても、大人になったときに以下のような点で問題を抱えやすいことが示されている。
健康面
依存症
- ニコチン依存症になりやすい
- 薬物依存症になりやすい
経済面
- 年収が低い
- 社会的地位が高いとされる職業につきにくい
- 将来の資産運用ができない(貯金が少なく破産もしやすい)
犯罪面
- 何らかの違法行為を行って、裁判で有罪判決を受ける可能性が高い
家庭面
- 子供がいる場合、シングルで育てることになりやすい
子供の時に実行機能が低いと、大人になったときに、経済面はもちろんのこと、健康面、家庭面、犯罪面など、多岐にわたる影響受けてしまう。
実行機能が高い子供は、大人になった時に肥満や循環器系疾患で悩むことや、ニコチンや薬物に依存することが少なく、年収や社会的な地位は高く、犯罪を起こす確率が低かった。
もちろん、これは全体的な傾向に過ぎないので、必ずそうなることを約束するもではない。それでも子供のときの1つの能力が、これほど後の人生にさまざまに影響する事はなかなかないだろう。
教育と関連して
「非認知スキル」最近よく聞くようになりましたよね。私もぼんやりとは分かっていたつもりでしたが、本書を読み理解が深まりました。
文部科学省は、生きる力を高めるために資質・能力の3つの柱を定めています。「学びに向かう人間性」「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力」の3つです。
学校現場では3つの柱の能力を高めるために授業が行われていますが、やはり、今でも数値として現れる認知スキル(知識及び技能)を高めようと力を入れている授業をよく見ます。
知識及び技能は教え込めば教え込んだだけ、結果につながりやすく、テストの点数として表れやすいです。
一方、非認知スキルは伸ばすことができるとありましたが、数値として測ることは難しいため、評価しにくい、されにくいです。
そうなると、結果が分かりやすい認知スキルで比べたり、評価したりすることになってしまいますよね。
現実的ではないですが、非認知スキルも可視化できるようになればそれを高めるような環境ができるようになるのになと思いました。
また、社会の価値観が変わり、非認知スキルを重視するようになれば教育の環境も大きく変化していくのになと思う今日この頃でした。